第十五章

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悲しみはなかった。 自分でもわからない。 ただ父がいないことに、悲しみはなかった。 恐怖もなかった。 これで帰れるのだという喜びもなかった。 今の私は、言うなれば何かを欠落した無感動さを醸し出してるに違いない。 ただ全ての感情が欠落したと取っていいほどに、私は何も感じてなかった。 ただ、懐かしむような瞳で空を扇いでいたのを私自身知る由もない。 どのくらいこうしてたのかわからない。 空を扇ぎ、空を見据えてた瞳を背後の駅に移した。 そこだけ異様に明るい、真新しい無人駅。 最早、本当に無人とかしたこの駅の名は”きさらぎ”。 村も呑み込まれておきながら、駅はその存在をありありと此処に示している。 くすりと口元を歪めた。 それは魔女や闇がそうであったように、歪んだ笑みであった。 それを沙耶は知らない。
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