第一章

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便利にカードで通り抜けられるような改札はなく、私は少し眉を寄せながら明日乗り降りする駅の人にでも状況説明してお金を払おうと思い、無人の改札を素通りした。 同時に財布の札を一枚一枚念入りに数えた。 財布の中身は朝と変わらず一ヶ月分の食費とほんの少しの小遣い程度。 だがタクシー代にはなるはずだ。 家には着けなくても知ってる場所に着けるのならもう何でもいい。 財布をしまい、頭の片隅で少しの落胆を感じる。 明日から切り詰めた生活をするかなけなしの貯金を崩すしかないなぁと憂鬱になりながら、人一人が通れるほどの改札を見据えた。 やはり無人駅。 昼間はいるのかもしれないが、シンッと静まっていてそこに駅員の姿はない。 建物事態は古めかしくもなく、よく見た感じ真新しく綺麗なものだった。 真っ白な汚れ一つない建物。 辺りは森とでも言おうか、林とでも言おうか………気が生い茂ったその光景はどこから見ても田舎風景だった。
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