5.泣かない青鬼

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 こんな風に旅をしていると、つくづく自分が何も知らない無知なゾンビだと気づかされる。 「じゃーん! どう? すごいでしょ!」 「すごいって……何が?」 「だから、ここだよ。私たちがいる、この場所。今どきこんな所が残っているなんて、私たち最高にラッキーなんだよ!」  上機嫌なニアに連れて来られ、僕はどう反応すれば良いものか、途方に暮れていた。  僕が今いるのがどんな場所かと聞かれると……まあ廃墟だ。  ちょっとゴミが散乱しているけれど、それ以外は特にこれと言って目に付くものもない普通の廃墟だった。  ニアの喜びようからして、てっきり生物の群れでも発見したのかと思ったけれど。  どう考えてもユートピアには程遠かった。 「あー……。ニアがとても幸せそうだから、僕も幸せだよ」 「スズキ、適当にリアクションしているでしょ?」  じと目を返され、僕は顔を伏せた。 「分からないかなぁ。これ全部、本なんだよ。つまりここは図書館」  ニアが足元に散らばった大量のゴミ……本の山から一冊を手に取って、丁寧に埃を払い落す。  どうやら、これが彼女の喜びの元だったようだ。  本がどういうものであるかは一応、僕も知っている。  人間が紙の束に文字を書いて残した情報媒体だ。  ゾンビの中にも、これを読むのが趣味だという個体は存在する。  もっとも、人間の真似をしたがるのがゾンビの習性なので、彼らにとっては本を読むというより、人間の仕草を真似ているだけなのかもしれないが。  ともあれ僕にとってはあまり縁のない代物だった。 「こんな保存状態が良いまま残っているなんて、本当に奇跡に近いよ。中身も全然、汚れていない」 「でも、どんなに状態が良くたってゾンビは本を食べられないんだ。紙の原材料が木であるという話は、どこかで聞いた覚えがあるけど……ここまで加工されてしまっては、もう生物とは呼べないだろ」 「原始人みたいなこと言わない。本は食べるものじゃなくて読むもの」  まあ、それは僕も分かっている。  どの道、まともに本を読めない僕にとっては、これは大量のゴミと相違なかった。 「つまりね。ここにある本を調べて、情報を集めるの。私たちは今まで闇雲に歩いてきたけれど、もし地図や土地に関する知識があれば、これから行く先が分かるかもしれない」
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