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ゾンビの朝は早い。
早朝、まだ日も登りきらないうちに僕は目を覚ました。
関節の調子は良好だ。今のところ腐敗の進行も見られない。
熱のない身体をほぐすように伸びをしながら、僕の一日は始まりを迎えた。
僕が住んでいるのはアパートの一室。
おそらく僕が人間であった頃に住んでいた場所だろう。
床板や壁紙は全て剥し、コンクリートがむき出しになった部屋。家具もほとんどなく、ぽっかりと何もない空間があるだけの場所だった。
まあそうしたのは僕自身なわけだけれど。
その話は、またいずれ。
「だいぶ蒸し暑くなってきたな」
窓を閉め切った部屋の中は独特の熱気がこもっている。
ゾンビなだけあって、多少の悪環境には耐えられる身体であるものの、こうなると別の心配が浮かび上がる。
「ああ、やっぱり……」
案の定、冷蔵庫(と言っても電気は通っていないため、ただの箱だ)の中に締まっておいた、野良犬の死骸がすっかり腐食していた。
ゾンビは生物、それも新鮮なものしか食べることが出来ないのだ。
生物であれば犬でも虫でも草でも何でも構わないのだが、“新鮮な”という条件が中々に厳しい。生きている生物を見つける機会は少ないし、死体はすぐに食べなければ腐ってしまう。
僕が捕まえたこの犬も、二週間ぶりのご馳走だったのだ。
大切に保存して少しずつ食べようと思っていたのだけれど、それが裏目に出てしまったようだ。
「こんなことなら昨日の内に、全部食べておけば良かったか……」
まあ悔やんでも仕方がない。
僕はまだ腐敗していない部分だけを食べて、残りを鞄に詰めた。これはこれで虫寄せの餌に使えるかもしれない。
身体は腐っても心までは腐らない。
僕なりの信念だった。
ふと外で窓を叩く音がした。
「スズキー! 起きているかー?」
見ると窓ガラスにへばりつくようにして、1体のゾンビがこちらの様子を伺っていた。
「おはようございます、コーポさん」
「オッス! 飯を探しに行こうぜ」
窓を開けて僕が挨拶すると、彼は陽気に手を振り返した。
このゾンビは隣部屋に住むコーポサイトウさん。ゾンビ歴2年のベテランで、僕にとっては先輩ゾンビにあたる。
面倒見の良い性格で、ゾンビになり立ての右も左も分からなかった僕に、色々教えてくれた人だ。
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