1.朽ちた世界

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 ちなみにスズキというのは僕の名前だ。表札にそう書かれていたので、僕は自分をスズキと名乗っている。  同様にコーポさんも表札から名前を取ったと言っているが、たぶんそれは家主ではなく、建物自体の名前のような気がする。まあ特に本人が気にしている様子もないので、深く言及したことはなかった。 「どうでも良いけど、どうして毎度、窓からなんです? 玄関から入ってくれば良いのに」 「なんか叩きたくなるんだよ、窓ガラスて」 「あーそれは分かります。なんかこう、ゾンビ心をくすぐると言うか」 「割れていないガラスを見ると、無性に割りたくなるんだよな」 「僕もショッピングモールを見つけると、用もないのに入りたくなっちゃうのですよね」  こういう感覚はおそらくゾンビ共通のものなのだろう。  理屈ではなく本能がそうさせる。 「それより起きているなら、早く飯を探しに行こうぜ。のんびりしていると食いっぱぐれる」 「そうですね。行きましょう」  これが早起きの理由だった。  明け方のうちに町に出て、まだ手つかずの食糧を探す。  虫や動物に夜行性のものが多いというのもある。早朝の狩りは昼間のそれよりずっと成功率が高いのだ。 「諺にもあるだろ。寝坊するゾンビは腐るのも早い、てな」 「初耳です。誰の言葉です?」 「俺が今、考えた」  コーポさんは大体いつもこんな調子だった。        ●          ●          ●
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