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生物特有の瑞々しさはないものの、彼の肌は変色が目立たず、腐敗した箇所が少なかった。
僕よりゾンビ歴の長いコーポさんがあまり腐敗していないのは、日頃の食生活によるものだ。
僕らの身体は時間が経つにつれ徐々に腐敗が進んでいく。その腐敗を緩和する唯一の方法が、生物を食べることなのだ。
「ゾンビは身体が資本だからな。全身が腐って脆くなっちまったら、まともに動くことも出来ない。そうなったら終わりさ。食って、食って、食いまくる。それが健康の秘訣だぜ」
コーポさんの言う通り、僕らは食べ続けなければならないのだ。
「とは言うものの、いよいよ生物なんて見当たらなくなりましたね。さっきから野良犬はおろか、虫一匹いませんよ」
「動物もバカじゃないからな。ゾンビの多い場所には寄り付かないんだ」
「公園もダメみたいです。植物はみんな食い尽くされて、丸坊主の木があるだけです」
「やっぱり人間がいなくなったのが問題なんだろうな。ゾンビにとっちゃ一番の主食だったんだ」
「コーポさんは人間を見た事があるんですか?」
「一年ぐらい前までは、まだ残っていたよ。さすがにもう全員食われたか、ゾンビになったかしただろうけど」
僕は生きている人間を見た事がなかった。
僕もゾンビになる前は人間だったわけだけれど、その頃の記憶はない。
僕にとって人間は、昔話の中だけにある伝説上の存在だった。
「人間て、どんな生物だったのです?」
「そうだな……まず基本的には弱かったな。足もそんなに速くないし、俺たちを見ただけで動けなくなる個体が多い。犬や猫を狩るより遥かに楽に襲えた。集団で動くのが好きらしくて、先頭が行った先についていく習性があったな」
「なんかグールに似ていますね」
「それで何故か、逃げ場のない建物の地下や屋上に逃げ込むんだ。仲間と組んで襲えば、一網打尽に出来るぞ」
「グールよりバカじゃないですか」
そりゃ滅びるわけだ。思わず肩をすくめてしまう。
そんな生物が、かつてはこの世界を支配していたというのだから、不思議な話だと思う。
「でも俺は嫌いじゃなかったぜ。俺たちが考えもしないような行動を取ったり、たまにやたら強い個体が混じっていたり。それに、あいつらは泣くんだ」
「泣く?」
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