1215人が本棚に入れています
本棚に追加
/332ページ
その時、僕はずっと頭の引っかかっていたものの正体に、ようやく気がついたのだ。
「そうか……僕はニアを守れるのが嬉しかったんだ」
僕はどこかでニアに引け目を感じていたのかもしれない。
旅の進路や狩りなどの役割分担も。これまで僕は彼女について歩くだけで何もしてやれなかった。
それが今回、初めてニアから頼られた。
彼女の期待に応えようと僕も必死になることが出来た。
僕はニアの旅のパートナーだ。
この美しい人間の少女と対等な存在なのだ。
その思いが、温もりの感覚にも似た謎の喜びの正体だった。
「なあニア、これからも僕に頼ってくれ。ニアを守れるのは僕にとっても嬉しいだ」
「ありがとう、スズキ。でも、私だって弱みばかり見せる気はない。――それにスズキは私を守るよりも、まずは女性に対するエチケットを覚えるのが先だと思う」
「えっ?」
「いくらスズキがゾンビだからって、女の子の荷物を勝手に漁るのはダメ」
僕は背筋に冷たいものを感じた。
バレていた……。
ニアは僕の密かな趣味に気づいていたのだ。
「別に触っても構わないけど、こそこそやったらやましいと思うでしょ。ちゃんと一言伝えること」
「いや、あれはその……でも、おかげでゾンビ犬を倒せたわけだし……」
「次また勝手に荷物に触ったら、本気で怒るから」
「はい……」
ニアにぴしゃりと言われ、僕はうなだれた。
うん。どうやら僕とニアが対等な存在というのは、やはり気のせいだったのかもしれない……。
彼女と肩を並べるには、僕には早すぎたようだ。
「今しばらくの間、地下に籠っていても良かったのかもしれないな……」
僕は思わず、そんな言葉を吐き捨てた。
――4.了
最初のコメントを投稿しよう!