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「人間として正しいことをしたニアを、どうして恨まなければいけない?」
ニアの言いたい事は何となくだが理解出来る。
生物にとって死はとても辛く、悲しいものなのだ。彼女はコーポさんを消したことを、僕に謝罪したいのだろう。
でも理屈としては理解出来ても、感覚的にはまったくピンと来ない。
正直、コーポさんが消えたことに特別な感情など湧かなかった。
そもそも僕は、これまで食べた生物の数だけ死を見ている。無論、食べるたびに悲しみを覚えたりなどしない。
その死がひとつ増えただけだ。悲しむ必要があるとは思えない。
でも、それはきっと人間の価値観とは違うのだろう。
人間はとても美しい。美しいものは繊細なのだ。
繊細な人間が、ゾンビよりずっと複雑な感情を持っているのは想像出来る。だからこそ彼女もあんな真剣に土を掘っているのだ。
「僕も何か手伝った方が良いかな」
「うぅん、これは私がやらなければいけないこと。スズキはお友達に祈りを捧げてあげて」
「祈りを捧げる?」
「両手を胸の前で組むの」
僕は言われた通り、作業が終わるまでの間、ずっと両手を重ねつづけた。
儀式の意味は分からないけれど、きっと人間にとって必要なものなのだろう。
コーポさんを埋め終えた頃には、すっかり日も暮れてしまった。
もう帰るには遅すぎる時間だ。
いや、もはや帰る必要もないのかもしれない。
「暗くなっちゃった」
「うん」
結局、大した収穫は得られなかった。
唯一手に入ったのは、コーポさんが残してくれた鳩が一羽。まだ死んで時間も経っていないので、今日のうちなら食べられるだろう。
その後は自力でどうにかするしかない。
今までのようにコーポさんに頼るわけにいかないのだ。
「スズキはこれからどうするの?」
「分からない。とりあえずここに留まって、食べられそうなものを探すつもり」
「そう……だったらさ、私の家に来ない?」
ニアが半ば無理やりに僕の手を引いた。
「一応、助けてもらった礼をしなくちゃいけないから。スズキはゾンビだけど、私を殺す気はないみたいだし。少し話がしたい気分なの」
「いや、ちょっと待って」
そう言いつつも、僕は彼女に抵抗しなかった。
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