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「いい……か?」
鳥のせせらぐ歌声が、開け放たれた窓から微かに響く。朝を知らせようとしているのか、その甲高く綺麗な鳴き声を轟かせるいつもの風景に、俺はいつものごとく外を伺い、微笑んだ。
カーテンを揺らしながら同時に入ってきた風が温もりごと俺の体をすり抜け、目の前の鏡にぶつかる。
オレンジ色に縁どられた可愛い鏡の中には、スーツ姿の自分が映っていた。
安いやつだが目立たないうまい場所に毛玉は出来、ネクタイもちゃんときつすぎずゆるすぎずの堺になるようにした。黒地に目立つ汚れ等も見受けられないし、髪もちゃんと整えた。
なので俺的にはこれで決まっていると思うのだが……如何せん他に見てくれる人もいないので、本当に大丈夫かどうかはわからない。
こういう時、近くにあまり話せる人がいないのは不便だなと思いながら、俺は鏡越しにこの部屋の主を見つめた。
「ハンカチ、入れた、学生証、入れた、筆箱、入れた。あとは……」
スクールバックを前にして一つ一つのものを指でさして確かめている女の子。
大切な大切な女の子、川瀬実里。
あたふたと慌てている様子の彼女は、俺の前まで来てそのまま俺をすり抜け、鏡の台に置かれていた鍵を手に取った。
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