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中田さんはまったく動かなかった。頭から流れ出た血が路肩の土にじっとりと染み込んでいく。
よく見ると頭も歪な形に変形している。どう見ても死んでいた。
とにかく、死体を隠さないと。
初めに考えたのはそれだった。警察に行こうとは思わなかった。
俺が落としたわけではないのだ。綾を巻き込んでしまった。
俺の都合で巻き込んだのだ。その為に綾の人生を犠牲にするわけにはいかない。
「とにかく、隠そう」
中田をどうにかこの場所から移動するしかない。
幸い、まだ誰もこの駐車場には来ていないし、中田が落ちた事に気が付いた人物もいないようだった。
人生最大と言っても良いぐらいの幸運だった。
しかし、この状態が何時までも続くわけではないのも分かりきっていた。
「でも、どうやって。車もないのに」
そうなのだ。免許を持っていない俺には車で中田を運ぶという手段は使えない。
それは綾も同じだろう。綾も免許は持っていなかったはずだ。
しかし、車も無しにこの重たいこれを運ぶ事はできないだろう。
「いいよ。宏樹。私は警察に行くよ」
「駄目だ!」
自分でも思っていたよりも大きな声が出た。
思わず辺りを見回すが幸い誰も聞いていなかったようだ。
「それだけは駄目だ。綾はこんな奴の為に人生を投げ出す事はない」
「でも……」
「それに巻き込んだのは俺のほうだ。綾は俺を助けようとしてくれただけなんだ」
そう。全ては俺が悪いのだ。だから、どうしても綾だけは助けなければならないのだ。
「絶対に綾に責任は負わせない。俺に綾を助けさせてくれ」
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