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宏樹がもう苦笑を浮かべてちりちりパーマを指さした。
「どうも。待合わせ場所をはっきりと決めるのを忘れてた直哉ですよ。お久しぶり」
亜希子の目が驚きで開かれていた。
「直哉? 本当に?」
何度も顔を覗き込む。無理は無いなと思う。中学生の頃とは印象が違いすぎる。
街角の悪戯ガキみたいな風貌だったのに、今は服をさりげなく着こなして、頭にはパーマがかかっている。
一言でまとめると。チャラい。俺もさっきまで直哉だと気が付かなかった。
皆が集まって来た事と直哉が気軽に俺に話しかけて来たという事で気が付いただけだった。
「皆。俺に気が付いていなかったのか? 孝介。お前は気が付いていたよな。だって会話していたものな」
「あれは会話じゃなくて一方的にしゃべっていたって言うんだよ」
直哉が言い返せずに黙り込む。
「直哉。さっきの質問の答えが分かったよ」
「質問?」
「亜希子や宏樹達の行動が不審な理由だよ」
俺が答える前に何を言うのか予測がついたのだろう。直哉の口角が引きつるように上がった。
「お前のせいだ」
指を指して言ってやった。
「ま、まぁ。終わった事はもう良いじゃないか。人間と言うのは常に前を向いて生きて来た生物なんだよ。周りを見渡せる目でも無く。目が横に付いているわけでもなく。正面を真っ直ぐに見ることができるようになっているんだよ。
後ろを向いていてはいけない」
「でも、歴史を振り返る事で学ぶ事はあるだろう」
「それは確かにその通りだ。でも、過去は学ぶものであって、後悔するものではない。
過ちには反省はしても後悔はしないことにしているんだ。そもそも歴史と言う物が真実かと言えばそうではないだろ。歴史って言うのは勝者の言い分だ。勝負に負けた人達の声は入っていない。学ぶ事は多いがそれだけにとらわれるのも良くないというわけだ。
だから、飲み屋に行こう。予約の時間が迫っている」
直哉は手を振り上げて皆を引き連れる様に先陣を切って歩き始めた。
「ああ。やっぱりあれは直哉だよ」
亜希子が呆れたように呟いた。
「まるで口から生まれてきた見たい?」
「そう! それ! 懐かしいね。昔二人でよくそうやって言ってたよね」
綾と亜希子が二人で盛り上がっている。
口から生まれたみたい。言い得て妙だ。
直哉が予約していた店はよくある居酒屋チェーンだった。
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