孝介

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亜希子が不思議そうに首を傾げる。 「そう。小学生の頃いつも俺達は一緒に遊んでいただろ」 全員が一様に頷く。 「その時、ここにいる五人の他にもう一人一緒に遊んでいた奴が居たじゃないか」 一瞬にして空気がおかしくなった。全員が不思議そうに首を傾げ戸惑った顔をしている。 俺自身も戸惑うしかなかった。一体なんだこの空気は。 「いや、ほら中学生になった時はいなかったから、転校したのかな。でも確かに居ただろ?」 「誰の事を言ってるの?」 「どうしたの急に変な事言って」 「誰かと勘違いしているんじゃないか」 綾と亜希子と宏樹がそれぞれ否定する。 俺はすがるように直哉に視線を送る。 直哉も首を横に振るだけだった。         「もう酔っぱらってる」 亜希子が心配そうに聞いてくる。 いや、そこまで酔ってはいないと思う。 「誰かと勘違いしてるんじゃないか。例えば」 宏樹が何人かの名前をあげる。確かに聞き覚えのある名前だった。 しかし、その誰もが違うと思う。 皆が他にも候補をあげてくれるが首を横に振った。         全員に心当たりがなくなって黙り込む。 「やっぱり何か記憶が混じってるんじゃないか」 だんだん自分の記憶に自信が持てなくなってくる。 俺の勘違いなんだろうか。考え込みすぎて頭がぼーっとしてきた。 「ちょっとトイレに行ってくる」 席を立ち上がると急に体にアルコールが回ってふらついた。 騒がしい店内を歩いて隅にあるトイレに向かう。ぎゃははと誰かが笑う声が頭に響いた。 トイレに向かうには店内の狭い通路を歩いてフロアを曲がった先に行かなければならないらしい。 案内板を見ながら壁に手をついて歩く。 通路で数人の人間がたむろしている横を通り抜けてトイレに向かう。 なぜだか睨まれていたような気がするが、今はそれどころではない。 トイレに入ると急に吐き気が込み上げて来て個室に飛び込んだ。 胃の中の物を吐き出すと、アルコールが多少抜けたのか気分が大分楽になった。 個室を出て扉を開けると直哉がちょうどトイレに入ってくる所だった。         「大丈夫か」 「ああ。ちょっとすっきりしたよ」 「そうか。あんまり飲みすぎるなよ。自分では平気なつもりでも意外と酒は回っていたりするからな」 自分も便器の前に立ちながら言う。
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