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それを見届けると満足そうに頷く。男たちはもうナンパの事など頭に残っていないのか直哉を睨みつけている。完全に馬鹿にされている直哉に怒りを突きつけているのだ。
「格好つけてんじゃねぇよ」
男が握った拳を振り上げて直哉に向かって振り下ろす。
直哉はその拳を避けようとして、思い切り顔面を殴られた。
吹き飛ばされた体が俺にぶつかって二人して床にもつれ合って転んだ。
「想像以上に痛いな」
俺の上に重なりながら呟く。別に喧嘩に自信があったわけではないらしい。
視界の隅に男たちが近づいてくるのが見えて慌てて直哉を押しのけて立ちあがり、直哉を引き起こす。
同時に直哉の腕を掴んだまま全力でトイレに向かって走り出した。
「っと」
バランスを崩しそうになりながら後についてくる。男たちもなにやら叫びながら追いかけてきた。
「待てこの野郎」
待てと言われて待ってやる義理は無い。
トイレに飛び込むと扉を勢いよく閉める。
扉が激しく叩かれる音が響く。両手で扉を押さえながらトイレの中にある窓を視線で示す。
「そこから。逃げよう」
「懸命な判断だな」
「なんでお前が偉そうなんだ」
したり顔で頷く直哉に思わずうめく。トイレの中にあるロッカーから直哉がモップを持ってくる。
「これちょうど良さそうだな」
いま押さえている扉はスライド式だ。モップをそのスライドする部分にかませようというのだろう。
直哉がモップを扉の横に置いた。俺はそれに合わせてそっと手を離す。
同時に扉が勢いよく開こうとして、モップに勢いよく引っ掛かった。
「ああ。なんだよこれ」
扉の向こう側から怒声が聞こえる。俺と直哉は顔を見合わせると窓から外へと飛び出した。
窓の外は薄暗い路地になっていてすぐ側には大通りが見えていた。
路地を駆け抜けて大通りを走る。しばらく人込みの中を走って店から離れた所でガードレールの上に座りこんだ。
全身がひどい疲労感に包まれていた。息が絶え絶えになって呼吸もままならない。
「そうだ。店に残っている皆は」
顔を上げると直哉が電話をしている所だった。
通話を終えて、俺に向き直る。
「宏樹達は無事に店内から外に出たらしい。俺達が騒ぎ始めた事に気が付いた宏樹が会計を済ませてとりあえず店内から避難したようだ」
「そっか。それは良かった」
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