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聞き覚えがある。聞きおぼえがあるだけでその人物像は浮かんでこない。
しかし、いままで聞いた中では一番馴染みのある名前だった。
「どうして。さっきまでは知らないと言っていたじゃないか」
「国枝には悪いが。忘れていたんだ」
忘れていた。それは俺自身にも言える事だった。
「あまり印象に残るタイプではなかったし思い出せなかったんだ。それに中学に入学してすぐに転校してしまったしな」
「頻繁に一緒に遊んでいたんだっけ」
「いや、そんなに頻繁に一緒に居たという事はない。と思う。でも、転校するまでは一緒に遊んでいた」
「そうか」
それで国枝若菜の話題は終わりだった。
俺自身はっきり思い出せなかったし、思い出せない事に罪悪感を少なからず覚えていた。
直哉も同じ気持ちだったのかもしれない。
商店街を抜けた所にある公園で皆と合流する。
「大丈夫だった」
亜希子が俺達に駆け寄ってくる。
綾と宏樹が公園の中央で手を上げて迎えてくれた。
「心配したんだよ」
「いきなり喧嘩を始めるとは思わなかった」
二人も直哉の行動に驚いているようだった。一番驚いたのは俺だと思うが。
「最高に格好良かったよ。女の人を逃がすまではね」
茶化すように直哉をからかう。直哉は不満げに頬を膨らませた。
「俺の予定では何とかなると思っていたんだ」
「それは予定とは言わないよ。直哉」
宏樹が呆れたように呟く。
「……これからどうする?」
時計を見ると、午後十時をいつのまにか過ぎていた。
「今日は解散するか」
宏樹が言う。亜希子が少しさびしそうな顔をする。それを悟ったのか綾が携帯電話を取り出した。
「また集まりたかったら、連絡取れるよ。今度はちゃんとメールアドレスまで交換しようね」
「そうだね。またいつでも集まれるよね」
亜希子も携帯を出す。俺達もそれにならって携帯を取り出した。
それぞれ、電話番号とメールアドレスを交換する。
「じゃあ、また。近いうちに」
宏樹が手を上げて公園を出ていく。
「またね」
それに続く様に綾も後に続く。
「絶対。また飲もうね」
亜希子がなごりおしそうに手を振った。
俺と直哉が二人遺された。
「直哉は帰らないのか」
「帰るよ。孝介は帰らないのか」
「帰るよ。明日、用事があるしな」
「そうか」
自分の言った言葉で明日デートだった事を思い出す。
結局、明日どこに行くかはまで決めていない。
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