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陳列する手を止めてもう一度秋穂ちゃんの顔を見る。
相変わらずつまらなそうな顔で空中を見つめていた。
「え?」
「二度も言わせるなんて男として最低ですね」
やはりこちらを見ずに言う。ボールペンを再び手にとって回し始める。
「俺の聞き間違いでなければ恋人になろうって聞こえたんですけど」
「そう言いましたから」
「恋人って好きな人同士がデートしたり手をつないだりするあの関係ですか」
「変態」
突然自分を抱きしめて俺を虫を見つめる様な眼見つめながら言ってくる。
「いや、君が言い出したんだよね」
「私が言ったのは恋人になってくださいって事だけです」
意味が分からなくなって首を傾げる。
「私は先輩が嫌いです。だから先輩が私の事をどう思っていようと好きな人同士ではありません。そして先輩とデートするつもりもありません」
不機嫌そうな顔のまま告げる。
「じゃあどうして恋人になってくれなんて言うんだ」
当然の疑問を口にする。秋穂ちゃんは目を瞑ってこめかみをかいた。
呆れているのだろうか。そんな表情に見えた。
一度大きく息を吸ってからため息をついた。
「私、この前まで彼氏いたじゃないですか」
「いや、さも知っているのが当然みたいに話されても。そうなの?」
秋穂ちゃんが驚いたように目を見開く。
「知らないんですか?先輩はてっきり周りにいる女子全員の私生活や趣味嗜好はすべて把握するのが趣味だと思っていたのに」
「一度俺に対する認識について話し合う必要がありそうだね」
「それはともかく。彼氏がいたんですよ」
「いたって事はもういないって事」
「そうですよ。この前別れたんです。性格の不一致で」
特に感慨もなく。呟く。
「それで?」
「その元彼がしつこく私にまとわりついてくるんですよ」
「だから?」
嫌な予感がした。
「先輩に新しい彼氏のフリをしてほしいんです。元彼の前に先輩を紹介すれば相手も諦めるかもしれませんから」
「それ俺、その元彼くんに恨まれたりしない?」
「するかもしれませんね」
「断る」
「却下します」
「は?」
「可愛い後輩の頼みごとを断る事を却下します」
毅然と指を突きつけて言ってくる。
「俺に何もメリットないよねそれ」
「むしろ、逆恨みされて襲われたりして」
どこか嬉しそうに秋穂ちゃんが笑う。
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