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「なんで俺がそんな目に。他の友達とかに頼めよ」
「友達が万が一襲われたりして怪我したりしたら申し訳ないじゃないですか。先輩なら怪我しても私の心は傷つきませんし。むしろちょっと面白いし」
「断る」
再び断言する。
「あ、先輩にもメリットはありますよ」
「例えば?」
「私の先輩への評価がミジンコから虫にランクアップします」
「ランクアップ?」
苦笑するしかない。
それでも大きくため息を吐いて秋穂ちゃんに向き直った。
「分かったよ」
「え?」
秋穂ちゃんがきょとんとした顔をする。
「だから、引き受けるよ」
「さ、さすがは先輩ですね。先輩ならそう言ってくれると思っていましたよ」
秋穂ちゃんはそう言いながらこめかみをかいた。
「で、俺は何をすればいいんだ? 自慢じゃないけれど彼女なんていた事がないから彼氏をフリをしろと言われても何をしていいか分からないぞ」
「本当に自慢じゃないですね。……まぁ。とりあえずデートでもしてみますか」
デートという言葉に少しどきりとしてしまう。生涯そんなイベントに関係してこなかったからだ。
「でも、デートはしないんじゃなかったのか?」
「そんな事は言っていませんよ。それに、いざ元彼に紹介する時に先輩が挙動不審じゃ怪しいですし。
ただでさえ先輩が彼氏だって言っても相手が諦めてくれるかどうか分からないのに」
「本当にどうして俺に頼むんだ」
秋穂ちゃんを睨みつけるが肩をすくめてみせるだけだ。
「先輩。次バイトが休みなのはいつですか?」
バイトのシフトを思い出す。確か三日後の土曜とその次の日曜が休みだったはずだ。
大学はすでに夏休みに入っているので特に問題はないだろう。秋穂ちゃんの高校もすでに夏休みのはずだ。
「今週末の土曜と日曜が一番近い休みだな」
「じゃあ、土曜日にしましょうか」
秋穂ちゃんの提案に僕は首を振る。
「土曜日は駄目なんだ。昔の友達が一緒に飲もうって誘って来てるからさ、日曜日なら一日空いているから」
「じゃあ、日曜日にしましょう。集合は朝の九時ぐらいに駅前でどうですか」
「いいけど。どこに行くんだ?」
「それは先輩が考えてください」
さらりと恐ろしい事を言う。
「俺が今まで彼女が居た事が無くてデートなんてした事がないって知っててそんな事言うのか」
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