コウスケ 終結

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「そんな罪から目をそらしたままでいいはずがない」 「いいじゃないか。誰も君を責めたりしない」 責めるとすれば、中田薫さんぐらいだろうが彼女との決着はすでについている。それに薫さんは中田を殺したのは僕だと思っているはずなのだから。 「自分が許せないかもしれない」 「許してあげればいい。ただそれだけのことだよ」 僕ははっきりと言ってやる。 「自分を許してあげればいい。亜希子が自分の事を許せないというのなら。僕だけは許してあげる。おこがましいかもしれないけれど。それでも、僕は亜希子のことを許すよ。そして、亜希子のことを嫌いになったりもしない」 亜希子は驚いたように目を見開く。 「心配しなくてもいい。誰も亜希子が中田を殺したなんて思っている人間はいないよ。だから心配しなくていい。何の不安も持たずに忘れてしまえばいい」 亜希子はうつむいたままシーツを掴んだ自分の両手を眺めていた。         「あなたは。強いね」 亜希子が呟いた。 「そんなことはないよ」 僕が言っても亜希子は首を横に振る。 「やっぱり、あなたは強いよ。私の事をずっと励ましてくれてる。私は忘れることができても、あなたは忘れることなんてできないのに。それでも、私を許すと言ってくれている。そう割り切ることができている」 亜希子は一呼吸入れていった。 「あなたはやっぱり強いよ。私も、あなたぐらい強くなりたかった」 言って、ベットに横になり。目をつぶる。 「ごめんなさい」 そうやって、一言だけ亜希子は謝った。 誰に謝ったかは僕には分からない。         そして、ゆっくりと目を閉じる。 僕はそっと亜希子の頭に手をのせる。 「おやすみ」 僕の言葉に亜希子は何も返事を返さなかった。 僕はベットの前から踵を返して病室から出る。両手には亜希子の日記を持っている。亜希子には必要ないからだ。 次に亜希子が目を覚ますときには亜希子は全てを忘れているだろう。中田のことも僕のことも。 ゆっくりと病室の扉をしめる。 廊下を歩きながら亜希子が言った事を思い浮かべる。 「僕は強いか」 一人呟いた。         病院のロビーに来て長椅子に座る。 「僕が強いか」 もう一度つぶやく。 「そんな事ないよな」 宙を眺めながら呟いた。 返事は返ってこない。 「しずくが聞いたら笑うかな。それとも罵倒するかもしれない」 再び呟く。
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