孝介

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「どうしてそんな事が分かる?」 俺に話しかけてはいるが俺の方を見る気はまったくないらしく、意思表示に気が付いてくれないので、とりあえず質問してみる事にした。 「一目見れば明らかだろう」 少し馬鹿にしたように今度は俺を指さす。         「全然分からない」 「あれを見てみろ」 もう一度正面の女性を指さす。ちょうどロータリーをバスが発進していく所だった。 「見たか」 どうだと言わんばかりに俺に言う。意味が分からず首を傾げる。 「今、バスが通っただろう。あの女はバスが通る度に視線を上げてバスを見ているんだ。  ずっと音楽を聴いて下を向いている女がどうしてバスが来た事が分かるんだ? 音楽を聞いていて下を向いていたらバスに気が付く事はないはずだ。つまり、あの女は音楽を聞いていない」 「はぁ」 俺はなんとなく頷いた。         「それにあの二人だ」 今度はベンチに座っている男女二人組を指さした。 「あの二人。さっきからずっとあそこに座っている。もう三十分にはなるな」 「あなたはそれずっと見てたのか?」 呆れたように呟く。 「当たり前じゃないか」 不思議そうに首を傾げる。俺はもう諦め半分で話の先を促す。 「おかしいと思わないか。二人でずっとあそこに座っていてバスに乗るわけでも電車に乗るわけでもない。あそこで何をしているんだと思う?」 「誰か他に待っている人が居るんじゃないのか」 「先ほどからあの男の方が何度か時計を見ている。もしも待合わせをしているならおそらく時間に遅れていると思って良いだろう。ならどうして電話しないんだ。今時携帯を持っていないって事もないだろうさ」 「まぁ、確かに少し違和感はあるけど。それがこっちを見ている事にはならないだろう」 「なるよ。そんな不審な行動をとっている人達がどうして俺と何度も目が合うんだ。こっちを見ているとしか思えないじゃないか」 自意識過剰だ。そう言ってやろうかと思った。 「なぜだと思う?」 俺に質問しているのだろう男が俺に詰め寄ってくる。思わず視線を逸らした。 「知らないよ。たぶん。気のせいだ」 「そんな事はないさ。ほら見てみろ。その証拠にあの音楽を聴いていた女がこちらに向かって歩いてきた」 その言葉に驚いて視線を男の指先に戻すと、確かに女が一人こちらに向かって歩いて来ていた。         まさかそんなことあるわけがない。
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