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「あんなに動揺するアラステア様は、初めて見たよ」
船の上でうららが倒れた。
倒れた……というか、寝たまま何をしても目が覚めなくなってしまった。
俺が回復魔法を直接かけても駄目で、仕方なく急いで『ハナチラシミナモ』を預けてある、神殿に来た。
「確かに、アラステアお兄さまは普段、とても落ち着いてらっしゃいますものね」
でも、とアラーナは続けた。可憐な花が舞い散るような暖かな笑みを、熟れた果実のように美味しそうな、滑らかな曲線を持った頬に浮かべている。
「うららさまの事に関してのみ、何故かお兄さまは余裕を無くされるのです……うららさまが早く、お目覚めになると良いのですけど」
微笑ましいものを見るときのような、アラーナの柔らかな微笑みはすぐに散り、暗いものになってしまった。
俺も、心配だ。
アラステア様の、うららに対する執着は異常と言ってもいい。今も、お告げの間で祈っておいでだ。
「わたくしはお兄さまのことも心配です。
うららさまがお目覚めになったとき……いつものように、お兄さまを拒否なさらないと良いのですけど」
うららさまには申し訳ないのですけど、と呟いたアラーナに俺は首を傾げた。
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