第1章

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IPODの再生ボタンを押すと、イヤホンから、雹の一番好きな曲『ジムノペティ』が流れ出す。 懐から短針銃を取り出し、両手に持つ。すれ違う人を十メートル前から審神をする。 雹は、歩いてくる知らない人が、今までどんな罪を犯してきたか、すぐに判る。 これはもう、どうしようもないな・・・という人間が歩いてくると、すれ違いざまに短針銃で首を撃つ。 撃たれた人は、チクリとするのか、すぐに首を押さえる。蚊に刺されたと思うらしい。 だが、三秒くらいで麻薬『ジムノペティ』の効果が現れる。歩くのをやめてボーっとして、何かぶつぶつと独り言を呟きだす。 或る者は、出てきたばかりの会社へ戻り、仕事中の上司の目ん玉に、思いっきりハサミを突き刺して殺した後、 すぐに自分の頸動脈をかき切った。また或る者は、恋人を走ってくるトラックの前に突き飛ばして即死させた後、 自分もスピードの出ている車の前へ飛び出す。雹は、ゆっくりと歩きながら、十人くらいに試してみて、その効果を確認した。 すぐにタクシーを停めて、乗り込み「山王会本部前まで」と伝える。タクシーの運転手は、雹の顔をバックミラーで確認して 「はい・・・」と短く大き目の声で、少しおびえた返事をした。組関係の人だと思ったのだろう。 到着すると、雹は多めに代金を支払い、タクシーを降りて門へ向かう。雹の格好は、至って普通のビジネススーツである。 サングラスもつけていない。微笑みを浮かべながら近づく雹に、門番の男は訝しげに 「すみませんが、あなたの顔に見覚えがないんですが、どちらの組のかたで?」と尋ねた。 スッと、二本指で顔付近を指されたので、なおの事、男は首を傾げる。プシュっと音がして、男が首を押さえる。 すぐに目が虚ろとなり、門番の男は懐から銃を取り出して、フラフラと屋敷の中へ入ってゆく。 銃声が続けざまに八発聞こえ、何人もの怒号と断未魔が響き渡る。その後すぐに、三発の銃声が鳴り響き、静かになった。 雹は、ゆっくりと屋敷の中へ入っていく。廊下には、門番の男、他八名、倒れている。全員即死だ。 立って銃を構えている男が二人、唖然として見ている男達が八人ほどいた。 雹は気づかれる前に、銃を持った男二人を短針銃で撃つ。門番の男同様に、二人はくるりと向きを変え、 仲間八人全員を撃ち殺した。銃声を聞いて、また、がやがやと、奥から銃を持った男達が十二人程出てくる。
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