3人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし田口が以前に当の真壁から聞いた話によると、彼はそれほどプロレスに対して、情熱を燃やしているというわけでもなく、ただ単に暴れることが好きだという理由で、ずっと闘い続けているらしい。
生まれながらの暴れん坊といった印象を持つ真壁丈は、不敵な笑みを浮かべながら、大きな身体をほぐしていた。
ほどなくして、リングの中央へと集まってきた二人の人気レスラーたちに、観客からの熱い声援が降り注いでくる。
広い体育館内に一際大きな歓声が響き渡ると共に、司会を終えた田口は、リングサイドに設置されている実況席へと向かっていった。
リングの中央に立ち、宿敵である真壁丈と睨み合っていたパラダイス・キッドこと坂口拓は、気を引き締めて試合開始の合図を待った。
目の前で不敵に笑っている最大のライバルを睨み付けながら、丈とのこれまでの戦績を思い起こす。
キッドこと坂口は、この同好会に入部して以来、真壁丈だけには一度も勝ったことがなかった。今日のようなタイトルマッチのみで考えたとしても、丈には今までに、三回以上は負けている。
――だが幾多の試合や、過酷な練習を重ねる度に、こっちだって段々強くなっているんだ。だから決して、俺は諦めたりなんかはしない。俺は今日こそ、こいつをぶっ倒してやる!
キッドこと坂口は、そんな熱い思いを胸に秘めながら、丈のほうを睨み続けた。両の拳を固く握り締めて、自分の身体中に、ありったけの気合いを入れる。
やがて打ち鳴らされたゴングと同時に、キッドは動き出した。持ち前のスピードで軽快なステップを踏みながら、目の前にそびえ立つ丈との間合いを計る。
まずは挨拶代わりの力比べだと考えたキッドは、じわじわと左手を差し出して、丈と両手を組み合った。しかし当然のように、丈の凄まじいパワーで押さえつけられてしまう。
――くっ……相変わらずとんでもねえ馬鹿力をしてやがるな。それならこうだっ! 力比べでは到底かなわないと判断したキッドは、相手と両手を組み合ったまま、素早く両足で飛び上がると、丈の胸にミサイルキックをぶちこんだ。
蹴りを受けた丈が、よろけて手を離す。キッドはその隙に、再び距離をとって丈と対峙した。今度は慎重に間合いを計りながら、細かいローキックや、打撃を使って攻めていく。
最初のコメントを投稿しよう!