44人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの……」
街灯の下でカバンの中をひっくり返していたスーツの男に後ろから声をかけた。男が振り返った。
「え? あれ?」
短髪。タレ目。目元のホクロ。
「橘センパイ? どうしたんれすか。こんなところに~」
会社の後輩の林(酔っ払い)でした。
(知り合い……!)
私はコートの前を隙間なくぴっちりと合わせてから言った。
「……どうしたもこうしたも無いけど。何してるの? スマホでも無くしたの?」
林が目を丸くしてから笑った。
「ええー。なんでわかったんですか? センパイしゅごいっすねえ。ははは」
うん。聞いたからね。白猫を睨むと、白猫は涼しい顔してあくびをしていた。
「林くん。どこで無くしたの?」
「えー。どこだったかなー確か今日は会社の近くの焼き鳥屋で高校のバスケ部のグループで酒飲んでてー
そしたらもう彼女から何回も電話かかってきて。友達と会うって言ったのに
うわ。めんどくせーってなって、あ、違うんすよ。俺の彼女束縛凄いんですよ」
「うん。それはいいから。続きは?」
林くんが上を向いて考えながら話し出した。
「みんなと解散した後、彼女に電話かけなおしてーそしたら超怒ってて
もう別れる! とか言ってくるから、もう俺もいいかと思って。
だってそんなんで長続きなんて無理だし。信用してくれないし。
それでいいよわかった別れようって――…ああ!」
「なに! 林くん、スマホどこにやったか思い出した?」
林くんが驚いた顔で言った。
「いや……俺、彼女って言ったけどもう彼女じゃなかったっす」
「あっそう!」
最初のコメントを投稿しよう!