第1話

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第1話

彼の家に着くと明日からの予定が気になった。 「たっくん、明日の予定は?」 「朝親父に仕事の件で少し呼ばれてて、その後は空いてる。本当は旅行も考えたんだけど、微妙に仕事入って台無しになった」 アイスコーヒーを飲みながら残念そうに肩を落とすので、励ますためにここで何か作って待ってようかと提案してみた。 途端にパァと顔が明るくなり「いいの?材料今から買いに行く?」と、すぐにでも出かけてる勢いだった。 作戦は成功したようだがそんなつもりではなく、あるの物でチャチャッと済ませようと思ってたがフリーザーを見た時に閃いた。 「お弁当の方がいい?」 「えっ、マジで」 何回か彼の家で料理をしてるので、冷凍庫には保存用に使えるものを少しずつ作り置きをしてある。 すっかり機嫌を良くした彼は、シャワー済ませてアイスでも食べようと二階に向かい、私はいつものように一階を使わせてもらう。 相手が休みの日に仕事だと何となくテンションが下がる気持ちも分かるので、少しでも役に立てて嬉しいと頬が緩む。 髪を乾かしお手入れをしてリビングに向かうと、珍しくたっくんが電話をしていた。 「はぁ、何言ってんの?嫌に決まってるだろ」 ちょっと声を荒げていたので大丈夫かと心配になる。 彼は私に気付くとゼスチャーで『飲み物でも飲んでて』と合図を送ったので音を立てないよう冷蔵庫から取り出した。 さっきよりは少し落ち着いていたが、私がアイスコーヒーを飲むと「もうしつこい!」とスマホを急に渡され慌ててしまう。 反射的に耳にスマホを当ててしまうが、どうすればいいのか分からないので彼を見ながら「お電話代わりました」と続けた。 「やっと代わってもらえました、お忙しい所恐れ入りますノブちゃんです」 「あの、先程は有難うございました」 相手を告げられず変わったがノブちゃんだと知ると、何となくホッとしてしまう。 「明日の打ち合わせ後ランチに誘うと『弁当があるからいらない』と断られまして。しかも手作りだとポロッと漏らすものですから」 流れを説明してくれているので「ええ」と相槌を打つしかないが、彼は大丈夫?という表情でこちらを見ている。 「――で、本題なのですが、私の分も作って貰えないかと思いまして」 「えぇっ?!」 と思わず声をあげてしまった。
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