第1章 けだるい朝

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 二十歳から二年間吸い続けた煙草を3日前から止めた朝は、玲奈にとっては一番辛い時間でもあった。煙草も灰皿も禁煙を決めた時に処分し、手を伸ばすことさえ出来ない環境を作り上げた。それにしても何度買いに行こうかと思ったものか・・・  今朝もそんな邪悪な煩悩と格闘し、危なげながらも勝利を得た玲奈は、冷蔵庫に蓄えておいた冷凍ピザを開封し、オーブント―スターの電源を入れた。ピザが焼き上がるまでの間、寝癖のついた髪を水で濡らし、水も滴る良い女みたく、鏡の中の顔に満足の笑みを投げ掛けた。 「今日もなかなかイケてる女だぞ」  玲奈は、自分に暗示を掛けることで細胞が活性化し、願う細胞組織へと変化していくという持論を疑わない。先人が言い伝えた「病は気から」という言葉が示す通り、人間の身体なんて気持ちの持ちよう次第でどうにでもなると解釈しているからである。
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