第2章 宛名のない手紙

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 ドアを開け、外付けの二階廊下を足音に気を付けながら通り、そこから180度方向を変えた階段を降りると、左手に小さな駐輪場がある。自転車とバイクでいつも満杯の建屋には常に10台程が規律正しく並べられており、その中の右から3番目が私の自転車の定位置と自然的に決まっている。 「よし。盗まれてはいないな」  月に五回も乗らない自転車は埃でまみれにまみれて、綺麗だったワインレッドの車体がまだら模様になっていたが、だからと言って洗車する気なんて更々持ち合わせてはいない。とにかく、いつもここにあれば良いだけの話である。そして、いつものごとく今日もここにあった。  駐輪場の後ろ、階段の下には10個のポストがあり、202号室のダイヤルロックを四回左右に回した。ポストのフタは音も立てずに開き、中に黄色い封筒が見えた。
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