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「その顔、気に入らないね。」
藍のあごを引き寄せ、椎名は、整った顔をゆがめ、意地悪い笑みでそう言った。
「え・・・?」
傾城になって以来言われたこともない言葉に藍が戸惑っていると、椎名は藍の真紅の襦袢の裾から手を滑り込ませ、藍の胸を一撫でした。
「あっ・・・し、椎名様・・・っ」
大した刺激ではない。けれど、触れられれば、感じようと感じまいと、艶めいた声で反応するのは、もはや条件反射だった。
「そういうのもいらない。」
しかし、これすらも、椎名には一蹴されてしまう。
大抵の客は、この一声ですっかり藍の体に溺れていくというのに。
ーーーなんだ、こいつ。意味わかんねぇ。
明らかに、今までの客とは違う。藍はだんだんと腹が立ってきた。
「ちゃんと笑ってみろよ。」
「あの、さっきからなんなんですか!?俺はちゃんと笑ってます!」
たまりかね、椎名の腕を振り払い、彼をにらみつけた。
けれど、椎名はそんな藍をただ楽しそうに眺めている。
そのうち、胸ポケットからたばこをだし、吸い始める始末だ。
「お前、確かに顔は綺麗だが・・・どの客にも同じ顔して笑ってんだろ。」
「そ、そんなこと・・・!」
「俺は大量生産の人形買いに来たんじゃねぇ。」
そんなことない。
言いかけて、言葉が詰まった。
「俺が触れたら、俺だけに感じて、俺だけに笑え。」
「はぃ?」
「ほら、やってみろよ。見てやるから。」
「ちょ、んっ・・・!!」
そう言うと椎名は、藍の手をつかみ、布団に組み敷いた。
見上げた顔は、やはり意地悪くほほえんでいて、腹が立つ。
「いい眺めだな。」
「あっ、ん、椎名さ、ま・・・っ」
それでも、触れられると反射的に声を漏らしてしまう。
襦袢の前を開かれ、椎名が藍の胸に唇を寄せた。
「そうだ。もっといやらしい顔してみろ。」
「意味が、・・・あ、んっ・・・わかりま、せん・・・ッ」
突起した胸の中心を舌で転がされ、だんだんと藍の体も熱がともり始める。藍のそれが首をもたげ始め、じらすように、椎名がそこに手を添えるが、直接的な刺激はせず、ただふわりふわりと触れるだけだ。
じれったさに、背中がぞくりと震える。
しかし椎名は、とどめの一言を吐き捨てた。
「お前が、“人形”じゃなくなるまで、俺はお前を抱かないからな。」
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