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「うーん。捨ててはいないと思うんだけど」
「え、ちょ、だから、ホントにあるの? ミスリルあるの?」
「押し入れ……いえ、納戸だったかしら?」
「お母さん? お母さーん」
ダメだ。行っちゃった。
ま、いっか。お母さんのことだし、どうせなんかと間違えてるんでしょ。
それより詩羽よ。そろそろ幼稚園へ迎えに行ってあげないと。
「お母さーん。詩羽はあたしが迎えに行くからねー」
体を沈めていたソファから立ち上がり、お母さんが消えていった方へと声を投げる。
返事はない。けど、待ってもいらんない。
「やっばい。ゆっくりしすぎたかも。急がなきゃ」
とりあえず、携帯だけをひっつかみ、わき目もふらず大慌てで玄関へと駆けていく。
だから、あたしは気づけなかった。
『それじゃあ頑張ってねー』
その背を見送るような言葉とともに、プツンとテレビがひとりでに消えたことに。
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