第1章

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 こんな小さい子を一人だけで遊ばせるなんて、無責任な親だと思ったが、お隣でもない他人の教育方針にあれこれ言えるはずがない。  こっちを見るのに飽きたように、男の子はまた車のおもちゃで遊び始めた。 「君はいつもここで遊んでるの?」  何となく言った、自分の『いつも』という言葉に動悸が速くなる。  コクリ。男の子はうなずいた。  それを見たとき、僕の手は、バッグの底から例の鏡を取り出していた。もちろん、小さい子供の記憶だ。決定的な証拠にはならないだろうけれど、何かのヒントにはなるかも知れない。  事件のあった日のことを聞いてみる。 「その日、この部屋から誰か出てきた人を見た?」 「見た。お兄ちゃんが出てきた」 「お兄さん……」  そっと鏡をのぞいて見ても、変化はない。嘘はついていない。犯人はムラサトなのだろうか。ますます鼓動が激しくなった。動揺のあまりもつれる足をなんとか動かすと、僕はそこから立ち去った。  近所の喫茶店で少しの間心を落ち着かせたあと、僕はすぐムラサトと連絡を取った。電話番号は、前に姉の友人の一人に教えてもらっている。 繋がるまでの少しの間が、僕には待ち遠しかった。こうしている間も、警察は捜査をしているのだ。もしムラサトが逮捕されたら、手出しをするのは難しくなるだろう。その前に復讐を果たさなければ。  僕から突然連絡がきて、ムラサトはひどく驚いていたが、「話がある」と伝えると素直に指定した公園にやってきた。もっとも、遺族に「姉の事件のことで話がある」と言われては、気になって無視することなどできなかっただろう。  ムラサトは、ほっそりとした優男だった。そういえば、姉は昔からこういったタイプの男が好きだったなと思い出して、少し胸が痛んだ。 「あなたが姉を殺したのですか?」  僕はいきなりそう切り出した。もちろん、手には鏡をこっそりと持って。 そう。何も子供に聞かなくても、最初からこうすればよかったのだ。 「い、イヤだなあ。殺すだなんて。俺がそんなことするわけないじゃないか」  鏡が血を注いだように赤く濁り、染まり、ぬられていく。  間違いない。姉を殺したのはこの男だ。 「……用件はそれだけです。呼び出してすみませんでした」  僕の言葉に、不審そうな顔をしたものの、ムラサトは帰ろうと背をむけた。 僕はバッグに隠していたハンマーを取出し、ムラサトの後頭部に、一気に振り下ろした。
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