第1章

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 結論から言うと、姉を殺したのはアイリだった。かといって、鏡が間違っていたわけでもなかった。  僕がムラサトを殺した次の日の夕方。今度は仇を討った報告をしようと姉の部屋に戻ると、またあの男の子が同じ所で遊んでいた。彼は僕を見つけると、少し嬉しそうな顔をしてこう言ったのだ。 「おねえちゃん!」 「は?」  一瞬からかわれたのかと思った。今まで女と間違えられたことは一度もなかったのだから。 「あら、たー君。またこんな所にいたの。勝手に家をでちゃダメでしょう」  僕とそう歳も変わらなそうな、派手な格好をした女性が階下(した)やってきた。 「ママ!」  男の子はやたらとよい発音で女性にかけよっていく。 「おねえちゃんが来た!」  そして僕のことを指差した。 「コラ! 『おにいちゃん』でしょ。すみません、この子、アメリカで産まれて、言葉を覚え始めたころに日本に帰ってきたものだから、英語と日本語をごっちゃに覚えちゃったの。マンを『おねえちゃん』、ウーマンを 『おにいちゃん』ってあべこべに覚えちゃったみたいなのよね」  その言葉を聞いて、僕はそれこそ頭をぶん殴られたような気がした。  だったら、姉の部屋から出てきたのは女ということになる。  でも、なんで鏡は嘘と判断しなかったのだろう? 『それは人の心を映し出し、嘘を感じると赤く染まる』  祖父はそう言っていた。  おそらく、鏡は嘘をついた者の心を読み取るのだろう。そしてその心の中に『嘘を感じる』と――つまり『嘘をついたという自覚』感じると――自分を赤く染めるのだ。  だから、男の子には反応しなかった。彼にとって女を指す言葉は『おにいちゃん』なのだから、一般的に間違ってはいても、嘘をついたわけではない。例えば、双子のAとBがいたとする。ある人が道でAを見て、Bの方だと思い込み、「道にBがいた」と人に言ったとする。それは『嘘』ではなくてただの『勘違い』だ。  だとすると、なんでムラサトは自分が姉を殺したのだと思い込んでいたのか?  それが分かったのは、僕がムラサト殺しで警察に捕まってからだった。自分を取り調べた警官が、うっかり口をすべらせた所によると、ムラサトは、姉に呪いをかけていたらしい。姉の顔写真が貼りつけられたワラ人形が彼の部屋にあったという。
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