第十三章 陰影の獅子王子

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 王都ルカベストには、もちろん国で一番の大聖堂があり。ダライアスは自らそこにおもむき、供を入り口前で待たせたうえに武器を携行せず、筆頭神父をつとめるシキズメントに会った。  このことにシキズメントは大変な驚きを隠せなかった。 「これはダライアス王子自ら、ご足労をおかけします」  弟子に執務室へと案内されたダライアスの姿を見た途端に、シキズメントは感じるものがあった。  王者の風格というものである。  弟子が椅子を用意したが、すぐに座ろうとせず。シキズメントが「どうぞ」とうながしてから腰を掛けた。  征服者であるのに、被征服者に対するこの態度はどうか。  ダライアスはシキズメントの目をまっすぐに見据えて、ドラヴリフトらの葬儀を行う旨を伝えた。 「葬儀は我が教会の儀典にのっとったやり方でよろしいのですか」 「そうしてほしい。オンガルリの民衆も、安堵するであろう」 「そこまでお考えで……。確かに、民衆も安心いたしましょう」  シキズメントは神に仕える身として、民衆の心の安寧を神に祈っていた。  ドラヴリフトとも親交があり。国防面で国を支えるドラヴリフトを動とするなら、精神の安定をもって国を支える静のシキズメントといったところか。  それだけにここ最近の国政の腐敗に心を痛めて。国王が常日頃唱える浪漫のろの字もなく、ついには亡びを免れなかったオンガルリの運命を嘆いたものだったが。  よもや征服者が一番に国の民衆のことを気にかけているとは! 「神にはこのことがお見えになっておられたのでしょうか」  思わずダライアスにこぼしてしまった。 「それはわからないが。予は己が神に導かれたなどと、不遜なことは考えぬ」  愛馬にアジ・ダハーカなる魔龍神の名をつけているような王子である。神に導かれるよりも、神すらも導く者にならんとする心意気を無意識的に持っていたとて不思議はない。 「心の固きによりて神の守りすなわち強し。と申しますが、あなたはそれを体現されたお方だ」 「……よせ。予が望むのは征服ではなく、統一である。ただそれだけのことだ」  征服者として責められてもやむをえないところを、讃えられることに、ダライアスは皮肉なものを感じた。  父が自分を遠ざけようとしているのは、わかっていた。そのために、わざわざオンガルリの、心が腐った貴族を抱き込むような手間までかけたのだ。
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