第十三章 陰影の獅子王子

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 しかし、どうにも、おかしい。いったい何が起こっているのか。あの、クンリロガンハでの様はどうしたことか。  何か目に見えないものが、ダライアスをどこかに導こうとしているのを感じてやまなかった。 「では、頼むぞ」  いろいろ気になることはあるが、まずは葬儀である。シキズメントにすべてを託し、ダライアスは大聖堂を後にした。  その王城までの帰路、人々は跪いてダライアスを見送った。 「!!」  ダライアスの頭に衝撃が走った。放たれた石が当たったのだ。  石を放ったのは、まだ小さな男の子だった。 「お父さんの敵!」  男の子はそう叫んで。母親は男の子を羽交い絞めにして、ともに地に額をつけて「申し訳ありません!」と必死に叫んでいた。  イムプルーツァは下馬し「おのれ!」と叫んで親子のもとまでゆき、帯剣の柄に手をかけた。 「やめろ!」 「しかし獅子王子(アスラーン)……」 「やめろと言っている!」  言いながらダライアスは愛馬アジ・ダハーカから下馬し、親子のもとまでゆく。  周囲は騒然となり、ことの成り行きを見守っている。侍女のヤースミーンにパルヴィーンも固唾をのんで見守る。  ダライアスは跪く親子のもとまでゆくと、片膝を地につけ姿勢をかがめた。 「予が憎いか」 「憎いさ! アラシアの蛮族!」 「おやめなさい! ああどうかお許しを。罪は私が一身に負います。どうかこの子を、お許しあれ!」  母親は子を抱きしめ、必死に懇願していた。  察するに、この親子はクンリロガンハにて死した騎士の家族なのであろう。 「強くなれ」 「え……?」 「予を討ちたくば、強く生き抜くのだ」  それだけを言うと、愛馬に戻り。何事もなかったかのように帰路に着いた。イムプルーツァも騎乗し、ヤースミーンとパルヴィーンらとともにあとにつづく。 「お慈悲は一度までだぞ!」  そう周囲に言ってから、 「獅子王子は優しいが、優しすぎる」  と、イムプルーツァは憂いを含んだ声で言った。
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