第十三章 陰影の獅子王子

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 ドラヴリフトらの葬儀は大教会にて、シキズメントの導師のもと、盛大に執り行われた。  神も天上界から見ているのか、その日は雲ひとつない快晴の秋空だった。  大聖堂の円形の屋根は陽光に照らされ強く輝き、両側に柱の並ぶ広間にはシキズメントの祈りの言葉と、少年少女らの清らかな声の鎮魂歌が響き渡る。  喪主は王妃ヴァハルラがつとめ。第一王女オレアに第二王女オラン、そして末っ子の王子カレルは従者につきそわれて、葬儀に参列する。  広間の中央に黒い棺が一基置かれており。そのそばにシキズメント。その後ろにヴァハルラとその子ら。その周囲をオンガルリの数十人の王侯貴族らが取り囲んでいた。  棺の中は空だった。  クンリロガンハにおける遺骸は、いたましいことになっており。そこに数十人残して、火葬し。その遺骨はルカベスト郊外の墓地に埋葬されていた。  この黒い棺は、クンリロガンハで死したドラヴリフトら勇士の象徴だった。  厳重な警備だが一般の国民も参列を認められ、多数の民衆がルカベスト大教会に詰めかけ。英雄の死を嘆いた。  そこに、ダライアスは姿をあらわさなかった。なんらかの言葉すらなかった。そのため、この葬儀はオンガルリの国葬の様相を呈していた。  一応でも参列していた王侯貴族たちの中で、イカンシとのつながりがあった者らは、この嘆きを見て、胸糞の悪いものを覚えていた。 (ふん。ヴラデ公がなんとかしてくれようぞ)  彼らの中に、妹が隣国で同盟国のマーラニアの将軍、ヴラデ公なる人物に嫁いでいる者がいた。その名をバゾリーといい、彼は内心妹婿に期待していた。  聞けば降伏をうながす使者がマーラニアに向かったきり、帰ってこないというではないか。「これは期待できるぞ」と、心ない貴族たちは面従腹背でダライアスに接するのであった。  そんな貴族らの心の中など知らず、勇士たちの死を嘆く民衆は次から次へと大聖堂へと詰めかけ。  この日は、都ルカベスト全体が嘆きに覆われていた。  ダライアスは征服者ながらも慈悲深い、ということは民衆もわかっていたが。それとこれとは別問題である。
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