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僕は曖昧なうめき声をあげる。半分は図星だ。だけど、僕がしようとしているのは、果たして旅なのだろうか。
彼女は僕の返答を待たず、しみじみと語りだす。
「なけなしの貯金で宿に泊まったりして。でも貯金なんてすぐになくなるし、お金がないから食べ物も買えないし道端で倒れてることなんてよくあった。でもそのたびにいろんな人に助けてもらってさ」
懐かしそうに。思い出を噛みしめるように。
「そうなんですね。どれくらい、旅をされてるんですか?」
質問を重ねる。女の人は指折り数えながら「かれこれ三年経つかな」と答えた。
その三年の中で、どれだけ『怖い思い』をしてきたのだろう。
どれだけの出会いがあったのだろう。
もしかして、見ず知らずの僕に、手を差し伸べてくれたのは――彼女自身が救われてきたからなのだろうか。
口に出す余地もなく「ついたよ」と立ち止まる。
そこは泉のほとりの開けた場所だった。木々が空を隠すこともなく、月明かりが水面に反射して輝いている。
「今晩はここで野宿するんですか?」
尋ねると、女の人は「そうよ」と答えて懐中電灯の電源を切り、大きなリュックをおろした。落ちている木の枝を集めるよう指示され、一緒に拾う。それを一か所に集めると、彼女はマッチを取り出して火をつけた。瞬く間に燃えていく枝を凝視する。直で焚き火を見たのは初めてかもしれない。
「わたし、出かけてくるから荷物見ててくれない?」
休憩を取る間もなく、女の人はリュックを探り、刃の細長いナイフとそれ用のであろうホルスターを取り出した。そして「あぁ、そうだ」と腰につけていたホルスターを外すと、
「あぁ、そうだ。何かあったら、これで対処して」
そこから拳銃を取り出して差し出した。
生まれて初めて見る物騒な物。一生、手に持つ機会はないだろうと思っていた物。
何のためらいもなく受け取るには、僕には勇気が足りない。
「何かあったらというのは、例えばどういうときですか……?」
尋ねる声が震える。どうしても、これを受け取らなければならないのだろうか。
対して、女の人は平然と、毅然と答える。
「主に、野生動物に遭遇してしまったときかな。セーフティは外してあるから、襲われそうになったときに使って。あぁ、仕留めようとか考えないでね。あくまで逃げる隙を作る用だから」
淡々とした説明が、耳から耳へと抜けていく。理解が、できない。
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