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甘ったれてると、死ぬよ。
先ほどの言葉が、無限に脳に響く。そのたび、全身に緊張が走る。この銃を使うのは、僕が命の危機に瀕したときだ。一瞬の躊躇で生死が決まる。
殺さなければ、殺される。
必要以上に周りを見まわした。手のひらに汗がにじむ。額から流れた汗がほおを伝い、首筋を伝う。決して気温のせいでも、焚き火のせいでもなく。
あの人が出かけてから何分経ったのだろう。あとどれくらいで帰って来るのだろう。早く帰ってきてほしい。そもそもあの人は何をしに出かけているのだろう。
どこからか大きな動物が現れて僕を襲ったら? それに気づかなかったら? 最後まで引き金を引けなかったら?
考えたくもない最悪のシチュエーションが脳裏をよぎり、それを振り払うかのように頭を横に振る。余計なことを考えるな、集中しろ。だけど、怖い、怖い。
背後でがさりと音がした。乱れかけた呼吸は一瞬止まる。
即座に振り返って銃口を向ける。手が震える。膝が笑っている。
これまでにないほど神経を尖らせた。鼓動がうるさい。いっそ止まってしまえ、いやそれでは本末転倒だ。
落ち着け、落ち着け。
言い聞かせれば言い聞かせるほど呼吸が早くなっていく。草陰の向こうに何がいるか――もしかしたらあの人かもしれないと考える余裕さえなかった。
早く、早く。引き金を引かなければ。
襲われてしまう前に――
刹那。
何かがこちらをめがけて飛び出してくる。反射的に叫び声をあげてしまい、銃が手から滑り落ちた。胸に衝撃を感じ、勢い余ってしりもちをついてしまう。僕は悲鳴を上げながらとっさにそれを払いのけると、立ち上がれないまま後ずさって距離を置いた。
足が震えて立てない。体が動かない。
ひるんでいる間に、何かがまた襲い掛かってくるかもしれない。逃げなきゃ、逃げなきゃ。
かすり傷や切り傷とは訳が違う。胸をえぐられて大けがを負っている。痛みがないうちに遠くへ――。
そこで、ようやく我に返る。
痛みが、ない?
血にまみれ引き裂かれたと思っていた胸元は、出血はおろか服のほつれひとつなかった。
僕はよろよろと立ち上がり、数歩先に転がっている何かに歩み寄る。白い毛の、長い耳の小動物――見れば見るほどウサギだった。かすかに開いている目は生気がなく、首元の毛が一部赤く染まっていた。襲うどころか、動く気配さえない。
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