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やっと状況を理解し、嘆息する。
「驚かしてごめんね」
ウサギが飛んできた方向から大して謝る気もなさそうに笑いながら女の人が現れた。
「近くにいたなら隠れてないで出てきたらよかったのに」
僕は不満げにつぶやいた。どれだけ緊張し、醜態を晒しことか。
「だから、ごめんねってば。ああでもしないと撃たれると思ったの」
腰が抜けて立ち上がれない僕をよそに、彼女は拳銃やウサギを拾っていた。
「だって君、あまりにビビッて何でもかんでも撃ちそうな勢いだったし」
痛いところを突かれ、ぐうの音も出なくなってしまう。
思えば、この森に入ったときからそうだった。恐怖に体が震え、物音ひとつで体が過剰反応。挙句の果てには無様に叫んで、這いつくばって。
あまりの情けなさに泣けてくる。そんなことに気付いていないであろう女の人は「ねぇ」とこちらを振り返る。僕は涙をぬぐって返事をすると、彼女はウサギの耳をつかんで持ち上げてはにかんだ。
「さばいてみる?」
一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。思わず「どういう、意味ですか?」と尋ねくらいには。女の人は顔色ひとつ変えることもなく「今日の晩ご飯」と腰のホルスターから刃の細長いナイフを取り出す。
なるほど。さっき女の人が出かけていたのは食料を捕りに行っていたのだ。だが、ウサギを食べた経験がない僕は、一縷の抵抗を感じてしまう。すると、さっきの「甘ったれてると死ぬ」という言葉が頭に響いた。同時に空腹を思い出す。
何が何でも食べなければならない。食べるものを選んでいられる状況ではないのだ。
それに、わざわざ暗い森をさまよった女の人の厚意やウサギの命を無下にすることになる。
だからってさばく必要なんてなかったのかもしれない。
なのに、僕は何を思ったのだろうか。何を血迷ったのだろうか。
「やってみます」
口は勝手に、そう動いていた。
女の人はにこりと笑うと「やり方、教えてあげる」と手招きをした。
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