第1章

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「自分からは金品の請求は一切ありません。 どう使うかは、使う人の心がけ次第であります。 但し、その笥魔舗は、水を媒介動力にしていますので、 半径10メートル以内に、 握り拳程度以上の水源を確保しなければなりません。 今は近くにお風呂の残り湯があります。 ちなみに自分の姿も声もあかり殿以外には 見えたり聞こえたりしません。」 「そういう事ね。」 あかりは京香やクラスメートには、 スマホは母親が家で保管しているから家に帰ってから しか使えないといって、 普段はシュシュの形にしてポニーテールの結び目に 巻きつけていた。 しかし、笥魔舗はあかりの水筒や校舎に通っている 水道管の水をエネルギーに シュシュの形状のまま自動的に起動し、 授業中などあかりが思考を始めるとすぐに サポートを始め、視界の一部に透過型のウインドを 開いて完璧な正答を導き出す。 あかりもアンフェアだと思いながらも、 誘惑に負けて笥魔舗を頼りにした。 授業中の発言や回答は完璧、 テストは全教科満点だった。 「一条さん、なんかすごいね。 真ん中くらいだった成績が、 体育以外いきなり学年トップだなんて。 授業中も積極的に手を上げて回答するようになったし。」 成績のことではクラスメートから いろいろと囁かれるようになった。 しかし、個人情報を無断で覗くことや タダで物やサービスを手に入れたりすることは、 しなかった。 放課後、あかりと京香は自転車を飛ばし、 西扇島海浜公園のテトラポッドに腰を下ろし 波しぶきの上がる海を眺めながら雑談をしていた。 「あかり、なんだか変わったよね。 成績優秀になっちゃったし。」 「そんなことないよ。 地道にやってたところが、 偶然テストに出ちゃっただけなんだよね。 それより、京香、あなた最近やけに 色気づいてない?」 「わかる?実は・・好きな人が居て、 告白しようと思うの。」 「えっ、誰?」 「隣のクラスの岡西大輔クン。 あっ、言っちゃった。」 頬を赤らめる京香に 「きっとうまくいくわ」とポニーテールを覆う 水玉模様のシュシュを撫でながら ありきたりな希望的観測を言うあかり。 家に帰り、机に向かうあかり。 しかしあまり顔色が冴えない。 (なんだろう?気のせいかな) 少しづつ、身体全体の筋力や肺活量が 上がっているような気がしていた。
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