0人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日は水泳大会だった。
あかりは体育だけは苦手で成績は下位の方で、
水泳は特に苦手だった。
皆と同じように胸元に「一条あかり」と書いた
名札が縫い付けられている
紺色のワンピースタイプの色気もへったくれも無い
スクール水着を着てプールサイドで準備体操を始める。
イチ、ニ、イチ、ニと掛け声を掛けて
屈伸をしているあかりに
「一条さん。」と声がかかった。
学級委員長の早坂勲だった。
早坂は水泳部所属で泳ぎも
オールマイティで
鍛え上げられた肉体とブーメランのような
競泳パンツ姿がまぶしかった。
あかりのちょっと好みのタイプだった。
「女子メドレーリレーに出る平澤が
体調崩して急に休んだから代役を
探しているんだけど無理かな。」
「でも私カナヅチ・」と言い出した
瞬簡に水の精霊があかりの口元を塞ぎ、あかりの声帯を
借りて話し始めた。
「いいですよ。早坂さんの為ならマグロいや
人魚にでもなって、
リレーに出ますわ。おほほほほ。」
シュシュのついたポニーテールを水泳帽の中に
丸ごと突っ込み
ガニ股で直角に両肘を挙げて「出」
の字のような
ガッツポーズを決めた。
早坂はあかりの奇抜なリアクションを見て
噴き出しそうになるのを堪えて
「ありがとう。アンカーだからよろしく。」
とあかりの肩を軽く叩いた。
(ちょっと、ちょっと、
全然泳げないのにどうなってるの?
私の口を勝手に動かさないでよ。)
あかりはダメ元で最善を尽くすと決めた。
遂に女子メドレーリレー競技が始まった。
あかりの2年桜組もスタート位置に付く。
スターターの「パァン」と音と共に
第一泳者が飛び込んで背泳ぎでスタートした。
第二泳者平泳ぎ、
第三泳者バタフライと進んでいくと、
2年桜組がビリになっている。
アンカーは自由形となっているが、
デフォルトで最も速く泳げるクロールに決まっている。
第三泳者が壁にタッチすると、やぶれかぶれで
ザブーンと勢いよく飛び込む、あかり。
視界にコースロープフロートで仕切られた
水面下の青いプールが広がる。
「自分が泳ぎを補正しますから、
あかり殿は体力の限り、クロールで前に進んでください。」
最初のコメントを投稿しよう!