さよなら。

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―――夜の空気は、肌を刺すように、冷たい。 私は、ただひたすら、待ち合わせした公園で、悠先輩を待っていた。 今日も、奏先輩に勉強を見てもらう予定があったから、それが終わったら少し会えないかと話した。 待ち合わせ時間、5分前。 公園の入り口に、人影が見えた。 「―――水原、ごめん」 悠先輩だった。 思わず、ベンチから腰を上げた。 ここまで走ってきてくれたのか、悠先輩の呼吸が少し、乱れていた。 少し早いペースで、白く浮かび上がる。 その様子はとても幻想的だった。 「待ったよな」 「いえ…!さっき来ました…!」 「うん、ごめん」 さっき来たわけではないこと、きっと気付かれていた。 じゃなかったら、もう一度ごめんなんて、言うはずがない。 視線を感じてそっと見上げてみれば、悠先輩の優しい視線がそこにあった。 鼓動が跳ねて、体が熱くなる。 「…どうする?どっか行く?」 「…い、いえ、あの…」 「ん?」 小首を傾げる姿は、こんなにも愛おしい。 また簡単に大好きの気持ちが膨らんで、胸を締め付ける。 だけど、違うんだ。 私はここに、気持ちを積もらせにきたわけではない。 「…っ…ここで少し…!お話したいのですが…!」 カバンの取っ手を、ぎゅっと握って、やっとのことでそう言った。 悠先輩は、一瞬目を丸くしたけれど、 「あったかいとこ行かなくて平気?」 すぐに、私を気遣ってくれた。 いつだって優しい悠先輩。 私は、目を合わせることが出来ないまま、そっと頷いた。
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