第1章 『ただの人』

2/3
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
小さい頃、何かを大人以上に上手にやると親や親戚、あるいは近所の人から『この子は天才だ』、『神童だ』と称賛された経験は誰でもあるだろう。かく言う私もそのうちの1人で、中1ぐらいまでは勉強をした事はないが、成績は常に5段階評価のオール5に近かった。 実は、私には人と違った才能があった。それは一度見たもたのは全て記憶してしまうというものである。勿論、漫然と眺めただけではダメで意識的に見る必要はあったが。だから、教科書を一度読み、黒板に書かれたものを見ればすべて頭に入ったのである。従って、他の子供達とは違って勉強をしなくても学校の授業を受けているだけで十分成績が良かった。 ただ、パボな私は自分の才能に全く気づかずに周りの同級生も同じ才能を持っているのだとずっと思っていた。 この才能に最初に気づかせてくれたのは小学5年の時に見た古いアメリカ映画。物語は、どこにでもいる平凡な少年が雷に打たれて気を失ってしまうのだが、目を覚ました後、自分の異変に気づく。見たものは全て覚えてしまうという素晴らしい記憶力の持ち主に生まれ変わっていたのだ。今でも覚えている印象的なシーンは分厚い百科辞典一冊をページを捲るだけで全部覚えてしまうというもの。だが、この時もパボな私の本領発揮。別段深く考えずに『あれっ、この少年、自分に似てるな』と思っただけであった。 そして、自分の能力に気づかせてくれた決定的なものが同じ年に某テレビ局が放送した『世界の天才少年少女』という特集番組であった。 世界の天才少年少女一人一人が映像で紹介されて行く。12歳で大学院に通う者、15歳でどこかの施設で既に研究者として働いている者などなど。番組中程で実際に日本人の一人の天才少女がスタジオに表れる。彼女は暗算が得意でどんな計算でも一瞬で答えが出ると言う。そうして実演。1つ、20桁もあるような長い数字、その足し算をスーパーコンピューターと競い合う事になるのだが、見事に勝ってしまう。司会者が『何でそんなに早く計算ができるの?』と聞くと、その少女は『数字を見た瞬間、答えが頭に浮かぶ』と答えた。 これを聞いてハッとする。『自分と同じではないか』。私も見た瞬間、勿論意識的に見ないとダメだが、1枚の写真のように、例えば教科書なら見開きのページが撮られた写真のようにそのまま頭の中にストックされたからである。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!