第1章 『ただの人』

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この才能について今まで誰にも話した事がない。親にもした事がない。ここで明かすのが初めてである。どうして明かさなかったかと言うと、先程の映画の少年や番組で紹介された天才少年、少女達の生き方が嫌だったからである。 映画の少年は能力者である事が分かると毎日のように研究者や新聞記者などから追い回され、モルモット扱い。一方の天才少年少女達は勉強や研究づけの毎日。当時、私には夢があった。プロ野球選手になりたかった。勉強や研究づけの毎日などは死んでも嫌、だから、どうしても自分の才能については話せなかった。 では、どうして今なのか。簡単に言うと、このまま誰にも知られずに死んで行くのが悔しい、誰かに知ってもらいたかった。ただ、それだけである(笑)。 さて、自分の才能に気づいた私だが、そこからパボのような転落人生が始まる。自分は『特別な人間』『特別な存在』と勝手に思ってしまい、プライドだけが高くなって行く。当然、勉強などしない。しなくてもできるのだから。 ところが、この才能、中2の頃から徐々に消え出していたのである。教科書を一度読み、授業を受けているだけではトップにいる事が難しくなって来る。しかし、パボ故にそれに気づかない。一応、進学校に入学したものの『特別な存在』という高いプライドだけが残り、甲子園を目指し朝から晩まで野球づけ。とうとう成績が学年で下から数えた方が早いところまで落ち込んでしまう。だが、それでも気づかない。『気にする事はない、私は特別な存在なのだから』。挙げ句には兄弟からもプライドだけは高いと悪口を言われる始末。そして、浪人。それでも、勉強はしない。ついには二浪。 そんなある日、たまたま見ていたテレビで『天才少年少女のその後』という特集番組が放送される。昔、天才少年少女と騒がれ注目を集めていた人達が今、どんな人生を送っているかを紹介するドキュメンタリー番組であった。 見て驚いた。何と、その人達の約9割が『ただの人』になっていたのである。これは私にとって衝撃的であった。そして、この時初めて、なぜ、一度読んだだけで成績が上がらないのか理解した。私も既に『ただの人』になっていたからなのだと(笑)。
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