第1章

3/40
前へ
/40ページ
次へ
 そんなある日、武が昼から銀座へ行こうと言い出した。何の用事なのか、何も言わない。 西銀座地下駐車場に車を停め、地上へ出て歩いてゆく。そのまま、ビル一階の世界的ブランド「ウェンディ」の銀座店へ入る。 一十三は、中の美しいファッションの数々に見とれながら、武について、奥へ入ってゆく。 店長らしき人が武を見て、顔色が変わる。「頼んでおいたもの、出来たみたいだね」「はい!こちらになります!」 と、すぐに出して広げて見せた所を見ると、ずっと用意して待ち構えていたのだろう。 真っ赤なパーティードレスの様だ。洗練された美しくシンプルなデザインである。 所々にダイヤが縫い付けてあり、背中と胸元が大胆にカットされていて、とてもセクシーだ。 「うん。いいねえ。イメージ通りだよ。いいデザインだ」 「それはもう、一点モノのオートクチュールですから。試着されますか?」 「勿論。さあ、これ、着てみて」と、そのドレスを一十三に差し出した。「うええっ!これ、私が着るんですか?」 「うん。だってこれ、君の体型ぴったりに合わせたオートクチュールだもん。君が着ないと他に誰も着ないよ」 「なんでまた私がこれを?」 「これから、新しい総理大臣の祝賀会があるんだ。最近、交代しただろ?で、どうせ君、パーティードレス、 持ってないだろうから、僕が代わりに注文しといた」 「そうだったんですか!それならそうと、言ってくだされば、自分で買ったのに。私、出しますよ。いくらですか?」 「いや、僕が勝手に注文したんだから、僕が払う。というか、もうすでに払ってある」 「そんな、悪いですよ。これ、高そうですもん。いくらですか?」「二千万」「は?」「二千万・・・プラス消費税だな」 「どぅえええ!」「いいからいいから、早く着て来て!」と、武は一十三を無理やり試着室へ押し込む。 一十三は仕方なくドレスに着替えた。試着室を出ると、武が「もう時間が無い!」 と、そのまま一十三の手を取り、今度は近くの美容室へ入る。すでに予約していたらしい。 なぜか一十三の席にだけ鏡が無い。武の仕業だろう。メイクとヘアセットとカラーリング、全て終わった。 それからすぐに駐車場へ向かう。今度はホテルのパーティー会場だ。丁度、総理大臣の挨拶が終わったところである。 沢山のセレブの集まる中、一十三が会場内へ入ると、大勢の人が一斉に一十三に注目する。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加