第1章

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「五十嵐さん」 「なに?」 「雹の声って、どうやって拾えばいいんすかね?」 「私もそれ、考えたんだけど、ピンマイクつけてって、 頼むわけにもいかないから、後で、声だけ別に適当に入れるしかないわね」 そう話していた二人の背後から、声がした。 「やっと、見つけましたよ」 五十嵐とマイク係が振り返ると、 そこにはなんと、雹が立っているではないか! 「ふあああ!」と、二人はのけぞった。 「後で勝手に吹きかえられては困るんですよ。ピンマイク、下さい」 雹はそう言って、手を差し出す。 マイク係は、恐る恐る手渡した。 雹は、それを身に付けると、広場中央へゆっくりと歩いてゆく。 雹の登場に、警察関係者全員に緊張が走る。 関副総監から無線が飛ぶ。 「狙撃隊。雹が現れた。各自持ち場から狙えるかどうか、連絡せよ」 「一番、狙えます」 「二番、狙えます」 ・・・「十番、狙えます」 「よし。そのまま待機だ」 「了解」 更に、世界各局のテレビカメラが一斉に雹の姿をクローズアップする。 そして五十嵐の声が無線で飛ぶ。 「もしもし、撮影隊、聞こえる?」 「はい!聞こえます」 「雹にピンマイクを付ける事に成功したわ。 近くのテレビカメラの人や警察の人にも受信できる様にしてあげて!」 「はい!わかりました!」 こういう事態も想定していたのか、テレビ局も警察もすぐに対応できた。  広場中央に、十メートルくらいの間隔で、雹と一十三が立っている。 「一十三くん、待たせてしまって申し訳ない」 「ううん。雹さん。今日は、とても穏やかな顔してるんですね」 「うん。三十年、この時を待ったよ。 君はもうフラフラだね。体力も気力も限界に近い。 意思の力だけは、最高潮に達してるが、 それで、よく僕の前に立てたね。死ぬ気かな?」 「よく分かんないけど、やれるだけやってみる!」 一十三が構えると、雹の体が白い霧の様な光を放つ。 『玄体』だ。 関警視が狙撃隊へ「雹の足を狙え!」と無線が飛ぶ。 雹は、ゆっくりと一十三に向かって歩いてゆく。 「狙撃班!撃て!」と指令が下った。 銃声が次々と鳴り、雹のズボンに無数の穴が開く。
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