第1章

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 そして放課後。 姿と一十三、零と了の四人は、 安田麗子の運転で、映画撮影に使われた教団本部ビルに着いた。 建物は綺麗にリフォームされていた。 麗子の案内のまま、四人は一階の応接間に通された。 見知らぬ美しい女性が 「零様、了様、お帰りなさいませ」と出迎える。 月龍だ。 大きいテーブルの席に全員が着くと、 すぐに月龍が紅茶を入れて持ってくる。 全員へ配り終えると、月龍自身も席に着いた。 すると、向かって右の青年が「私が零です」と静かに微笑む。 左の青年は「私が了です」と少し語気を強めて微笑んだ。 一十三と姿がこくんと肯く。 「突然で驚くでしょうが、私は雹です」と零が言う。 「私は武です」と了が言う。 「え?」一十三と姿は顔を見合わせた後 「一体どういう事なんですか?」と一十三が訊ねる。 零=雹がゆっくりと話を始めた。 「意思を受け継いだとか、そういう意味ではなく、言葉通りの意味です。 初めから順を追って話をしましょう。 三十年前、私達は十五の時、 ジムノペティ計画の原型となる計画を想いつきました。 その計画を実行する為、大学時代から、 お互いの肉体を入れ替える実験をしていました。 幼い頃から幽体離脱を繰り返していた私達にとって、 それは簡単な事でした。 そして不思議な事に、体を入れ替えると、 相手の知識や技など、簡単に身に付く事を発見しました。 これは、私達が一卵性双生児だったからこそ、かもしれません。 そして、私達が三十五の時。 父が武の日記を偶然発見してしまったのです。 父は武の事を悪魔だと罵りました。 そう。あの日死んだのは、私ではなく武なのです。 泉警部は武が私を殺したと推理していましたが、それは違います。 父が武を殺したのです。毒殺でした。 死体は父が用意した水酸化ナトリウムのプールに放り込み、 脆くなった骨は粉砕機で粉にして、海へ撒きました。 そうして、死んで霊体となった武を私が呼び寄せて、 私の肉体に宿らせたのです。 その後、私の肉体に宿った武は父を殺し、失踪届けを出しました。 初めの内は私の肉体を二人で交代で使っていました。 私は武としても活動していましたし、 武もまた私としても活動していました。 関東連盟を皆殺しにしたのは、私に変装した武です」
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