プロローグ

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 高収穫性の食用作物の発達によって食料不安を脱した人類は過去に例のない人口爆発を迎えていた。しかし、何の前触れもなく一斉に食用作物が枯れ出したことにより繁栄は急転、人類は滅亡の危機に瀕する。  食用作物の種子を独占的に扱っていた巨大食料商社の次の一手は、タブーである直接的な遺伝子操作よってセルロースを分解できる腸を持つ人類を開発することだった。  秘密裏に建設された深地下の施設には優れた科学者達が集められ昼夜を問わず研究が進められた。  食糧危機の続く地上では、過去の遺物として捨て去られたはずの国家や民族が復活していた。闘いと殺戮は日常となり、不安が世界を覆う。  地上が紅蓮の炎に包まれようとしていたまさにその頃、地下深くの秘密施設では小さな命が生まれた。山羊の能力を受け継ぎ、セルロースを分解できる腸を持った人類の誕生であった。すくすくと育つ少女は誰からともなく「山羊女」と呼ばれた。科学者たちは山羊女の卵子を利用してセルロースを分解する腸を持つ男、山羊男を作る実験を繰り返した。不思議なことに彼女の腸の持つセルロースを分解する機能はまったく遺伝されないのだ。  はたして山羊男は生まれるのか。  研究者達は山羊女の遺伝子を受け継ぐ地下施設を支えるための設備と儀式を作り出そうとしていた。万が一、研究が途絶えたとしても儀式であれば長く受け継がれるはずだというのが彼らの思惑だった。  そして、長い時間が過ぎた。  研究者たちのもくろみ通り、目的すら忘れられたまま地下の世界では儀式が受け継がれ、設備も保たれていた。  山羊男は、まだ生まれていない。
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