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氷で出来た書いている最中の文字が、何かに叩かれたように粉々に散っていくと共に、氷の色と似つかわしくない赤い液体が男性の身体にかかる。
見せる事無く消えた文字の下では、自らの右手の平を刺さった矢に残したまま、赤い血が垂れ続ける手首をこちらに向ける幼女の姿が見えた。
「っはぁ・・・・・・おい人族・・・・・・随分とコケにしてくれるじゃないか・・・・・・!」
大きく見開いた目は一段と深く、そして鮮やかに輝き、手首から流れていく止め処ない血が幼女の身体を赤一色に染め上げていく。
整わない息遣いが不安定さを生み出し、まるで狂気を誘発されそうな雰囲気に男性は僅かに腰を浮かせ、下がっていた。
その反応に幼女は、自慢の八重歯を見せ付けるように口角を上げ、自虐気味な短い溜息を出す。
「下がる必要はないぞ・・・・・・どっちにしても、もうこれ以上の魔力も力も今のボクには・・・・・・いや、”魔族にはもう無い”んだからな・・・・・・」
呼吸が浅く、落ち着くにつれて目の輝きは次第に弱まり、幼女の声もそれと同じように張りを無くしていく。
向けていた手首が死んだように下に落ちると、男性はすぐさま近寄り、赤く染まった幼女の頭を支える。
「・・・・・・最後の魔王が死んで、ボク達魔族は君達のオモチャに成り下がった・・・・・・こうなることも一度や二度じゃない・・・・・・」
呟きながら話す声はどこか口惜しそうで、その煮え切らない感情に男性が食い入るように見つめていた。
「分かってたんだ・・・・・・こうなることも・・・・・・」
幼女の目と男性の目が合う。
「ボクの魔族としての在り方・・・・・・吸血鬼としての信念・・・・・・何よりボク自身のプライドを守るため・・・・・・自殺ぐらいは考えてるさ」
気づくと幼女の足先は少しづつ灰のようになっていき、引きちぎった手首からの血もほとんど出なくなる。
それに伴い、矢での拘束は同じように灰になっていく服や手には、もはや物理的な効力は発揮していなかった。
そんな支えていた幼女の頭を男性はゆっくりと地面に降ろすと、その腕で何か文字を書き始め、反転する。
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