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「さっきから黙って聞いてりゃあ、親父もジジイも、何か言ってる事おかしくねえか!」やや巻き舌気味に言い放つ。
「何がおかしいんだ……。というか何だ、その口のきき方は……」義父は困惑気味である。緑は何かと難しい年頃なのだ。
「いい加減にしてくれねえと、さすがのあたしもグレちゃうよ、マジで」
修一としては、既にグレているものだと認識していた。違うのか、更に上があるのか。
「なんか話聞いてると恐いよ。世の中真っ黒じゃん」
緑が引くのも無理はない。修一もまさかここまで落ちぶれるとは思っていなかったし、ここまで社会の底辺が荒んでいるとは、落ちてみるまで知る由もなかった。そこは社会全体のネガティブな感情が上から下へと流れてきて堆積する場所だった。
「ガキの頃からずっと『嘘だけはつくな』って親父言ってたじゃん。なのに何で嘘つきの言いなりにならなきゃいけないの」
「ああ、僕もそう信じていたんだけどね」修一は力なくうな垂れた。「世の中は思った以上に複雑みたいだ」
「そりゃあ、うちは昔から貧乏だったよ。でも親父もお母さんも必死で真面目に働いてたじゃん。そういうの子供はちゃんと見てるんだよ。だからあたしもここまでグレることなくやってこれたんじゃん」
そうか、やはり本人的にはグレている認識はなかったということか。それはここ最近暗い出来事の多い青山家にとって、久しぶりの明るいニュースであった。修一達の住む廉価な県営住宅はあまり環境が良いとは言えない。子供が非行に走る比率も高いのだ。
「なのにさあ、なんでこんな事になっちゃうの、絶対おかしいよ」
「そうだよね」修一は力なく呟いた。「でも僕にも理由が分からないんだ」
「まったく君という男は、いつまで経っても成長しないんだな」
義父が嘲るように口許を歪ませた。
「嘘をつかずに、真面目に、だって」鼻で笑った。「青山君、君はいったい年は幾つだ、建前という言葉を知らんのか。人生というのはそんなに甘いものじゃない。時には人を欺いても、蹴落としてでも、踏み台にしてでも、手に入れなきゃならないものが、奪い取らなきゃいけない瞬間が、人生にはあるんだ」
義父は徐々に感情を昂らせ、最後の方は興奮気味に捲し立てた。
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