第3章 路上

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 寒空の下、公園に五百人程が縦横整列していた。カトリック系団体が主催する炊き出しの列に並び、代表の説教が終わるのを待っているのである。空は鉛色に覆われ日差しはない。木枯らしに吹かれて、白いレジ袋が足元を走り抜けていった。  周りを見回すと、割合身綺麗な者も少なくはない。見た目だけでは普通の人と判別できない程である。見分けるポイントはボストンバッグなどの割と大掛かりな荷物を持ち歩いていることぐらいだろうか。  炊き出しにありつくには、一時間近く説教を聞かねばならなかった。毎度お預けをくらった犬のような気分になる。説教は頭に入ってくる筈もなかったが、時折「ハレルヤ!」などと代表が雄叫びを上げると、修一たちホームレスも拳を突き上げながら声を出さなければならない。それ以外は寒さに身を竦ませて、物思いに耽りながらただ時が過ぎるのを待つだけだった。  あの家族会議の日、義父に厳しく非難され、修一自身は離婚を受け入れる気持ちに傾いていたのだが、杏子と緑の反対によって、結婚生活は継続される事となった。自責の念に駆られる中で、彼女達の思いは修一にとって唯一の救いだったのかもしれない。しかしそれだけに、何としてでも仕事を見つけなければならなかったのである。修一は連日ハローワークへ通った。
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