第3章 路上

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「ただでさえ年齢的に厳しいのに、その上懲戒解雇と賞罰まで付いてしまってはねえ……。せっかく正規で入れたのに、私も担当者として情けないですよ、ホントに」そう言うと、顔馴染みの職員はうんざりした様に溜息をついた。 「そこを何とかお願いします。何でもやりますから」言いたいことは色々あったが、職を求める立場ゆえ、修一は自分を抑えカウンターに頭を擦りつけた。  しかし毎回、端末で検索した条件の合致するいくつかの求人情報を問い合わせてもらうものの、面接まで辿りつけるものは殆どなかった。大抵は電話で断られてしまう。  これといって手に職のない、博士課程卒の、三十九歳、前科有り、直近の仕事は懲戒解雇である。無理もない。  結局ハローワークでは、一度も継続的な仕事を得ることは出来なかった。唯一、派遣会社を通じて月に一、二回単発のバイトが舞い込んでくる以外、仕事のない修一は、積極的に家事全般を受け持つようになり、ほぼ専業主夫と化していった。そして段々と日が経つにつれて自分自身の存在に追い詰められていったのである。 「探しても見つからんもんはしようがないだろう」と、開き直ることが出来たならどんなに良かっただろうか。「仕事が見つかるまで俺は専業主夫だ」と、堂々としていることができたなら、それくらいに修一が図太い神経の持ち主であったのなら、それが三人にとっては一番良かったのかもしれない。  しかし実際の修一は、段々と自分を恥ずかしく思う感情を抑えることが出来なくなっていった。日を追うごとに卑屈さを増していく。狭い二間の団地に逃げ場はなく、日々妻子の前で恥ずかしい自分を晒し続けた。恐らく優しいふたりは気を使ったのだろう、そんな修一の惨めさに気付いていない振りを一生懸命してくれていたのだが、その優しさは皮肉にも余計に修一を傷つける事となった。  修一は自分が存在することで、妻子に不快な思いをさせていることを、いつの頃からか自覚するようになった。卑屈さが体に染みついてしまい、真っ直ぐ人の顔を見ることさえ出来なかった。もう取り繕うことすら出来なくなっていたのである。こんな父親と暮らすことが、緑にとってどれほど負担となっていたことだろう。
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