案山子

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僕は今、のどかな田園風景の中、車を走らせている。 どこまで行っても畑と田んぼだ。 これから、しばらく走りあの山の中の集落まで約一時間。  先月僕は仕事を辞めた。 僕には都会の暮らしは向いていなかった。 職場でも人間関係がうまく行かないうえ、自宅アパートの周りはしょっちゅう喧嘩や事件が起き、僕は家に居ても喧騒の中暮らしていて、落ち着かなかったのだ。   元々僕は田舎者で、今車で走っているこういうのどかな町で育ったのだ。 それなら実家に帰ればいいという話だが、あいにく両親は他界しており、僕には兄弟がいなかったので、実家を管理するのは難しく、処分したのだ。今となってはこんなに早く退社するのであれば、処分せずにいればよかったと後悔している。僕にはその時の遺産があるので、当面は暮らしには不自由しない。だから、僕は思い切って農業に転職することに決めたのだ。  とりあえず1~2年間、農業研修を経て、最初は比較的作りやすい野菜からトライしていこうと思っている。僕は今、その研修場所となる村に向かっているのだ。今まで都会に住んでいたので、ペーパードライバーだったけど、今度からは山奥なので車は必須だ。僕は思い切って、小さな軽トラックを買ったのだ。久しぶりの車の運転は楽しい。これからのことを思うと不安なことは山積みだが、この田園風景にすべて癒されそうだ。僕は期待に胸を膨らませた。  田園風景から、山へ入っていくと、かなり細くて険しい道が続き、ペーパードライバーだった僕の運転が怪しくなってきた。 おっかなびっくりで山へ入っていくと、谷あいに集落が広がっていた。やっと人里に出た僕はほっとした。橋の上から川を覗き込んでいるお爺さんがいたので、僕はゆっくり橋を徐行し声を掛けてみた。 「こんにちは。」 声を掛けてみたが全く振り向かなかった。耳でも遠いのだろう。 僕は気にせずに、橋を渡り、集落へと車を走らせる。しばらくすると、道端の畑で作業中のおばあちゃんを見つけた。僕はめげずに、もう一度声を掛けてみた。 「こんにちは。」 こちらも反応が無い。しかも、静かな山間に車なんて僕の車くらいしか走っておらず、車の音や姿でこちらを認識しているはずなのに、何の反応も無い。おかしいな。僕はそう思い、だんだんその人物に近づくにつれ、僕は何故返事が無いのかを悟った。
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