案山子

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「なんだ、案山子だったのか。」 僕は一人苦笑いした。もしかして、あの川を覗き込んでいたおじいさんもそうなのかもしれない。 それからも道端のあらゆる場所に案山子がいて、あまりの多さに驚いた。この村は何故こんなに案山子が多いのだろう?僕は不思議に思いながらも、今日から永住する予定の新居に着いた。古い民家である。家具やらは、その家に備え付けの収納があるので必要がなく、僕は最低限必要な家電と衣類のみで引っ越してきた。引越しとは言えども、一人分の荷物。あっと言う間に一人で片付けて、家電を設置した。  そしてこれから農業指導でお世話になる山田さんのお宅を訪ねたのだ。 「まあまあ、こんな山奥までようおいでんさった。お疲れでしょ?冷たいもんでも出しますから。」 そう促されて、僕は山田さんのお宅にお邪魔した。 「これ、つまらないものですが。」 僕はご挨拶の菓子折りを差し出した。 「あれ、こんな。お気をつかわずとも良かったのに。」 優しそうなおじいさんだ。良かった。山田さんは、奥さんと息子さん家族と一緒に住んでおり、家族中で農業を営んでいる農家だ。 優しそうなご家族で、僕はほっとしている。やはり田舎の人は人がいい。僕は職場での辛い日々を思い出していた。意地悪な先輩や同期、おまけに後輩にまでバカにされる毎日。僕は仕事ができる方ではなかったから。農業のノウハウを身につけたらそのうち、お見合いでもして素朴な嫁さんをもらおう。僕は平和な日々をずっと夢見ていたのだ。 「ここはのどかでいいところですね。」 僕は山田さんの奥さんが出してくれたお茶を一口飲みながら言った。 「そうでしょ?空気は綺麗だし、景色がいいでしょう?」 山田さんがニコニコして答えた。 「ええ、田んぼや畑もたくさんあって。」 僕はややあって、素朴な疑問を山田さんに投げかけてみた。 「なんだか、この村って案山子が多いような気がするんですけど。」 何気ない一言だった。僕がそう言うと、急に山田さんの目がビー玉のような質感になった。 気のせいだろうか? 「ああ、ここいらは獣が多くてね。作物を荒らすんですよ。あれは畑の守護神ですよ。」 山田さんが薄っすらと口で笑った。獣?普通なら固有名詞が出てくるところだけど。
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